それから一時間弱、シンの母親の話を聞かされた。
結論。
シンは「アルコール中毒」らしかった。
テレビや映画でしかその病名を聞いた事が無く、私にとっては何だかリアリティのない、本当に実在する病気なのかも疑問の病名だった。
病院に入っているのはあくまでリハビリの為なの、と母親は言っていた。
お酒が元々強い訳でも無いのに、精神的に追い込まれると底なしに飲み続けるの、何度も救急車で運ばれたわ、その都度、病院にしばらく入って、嫌になって抜け出したりもするの、で追い出されて、またお酒を飲んでしまって…その繰り返しなのよ、と言った。
うっすらと涙も浮かべていた。
でも私は全てを見抜いていた。
シンを預ける為の誰かを探している、この目の前の弱いオンナの事を。
そして、シンもこの母親にオンナをこれでもかという程感じ、嫌気が差しているだろうことも。
「今回も酔って、階段から落ちて、腕の骨を折って運ばれたのよ。ねぇフミさん。こんな事、あなたにお願いするのはお門違いだとは思うんだけど…」
「毎日来ます」
「えっ?」
私はココロで感じるより、アタマで考えるより全然先にコトバがどんどん出てきて止める事が出来なかった。
「お母さん、お願いですから、私にお願いなんてしないで下さい。そんなの弱いオンナがする事です。あなたに言われなくても、私、明日から毎日ここに来ますから。お願いだから、私にもうこれ以上、何も言わないで。シンの母親にオンナを感じるなんてまっぴらですっ!」
そこまで言って私は血の気が引いた。
何て事を言ってしまったのだろう。
きっと目の前のオンナは怒りで私を見据えているに違い無いと。
しかし。
恐る恐るゆっくりと私が顔を上げると、目の前のオンナは魔物のような作り笑顔で
「ありがとう」
と言った。
私は諦めた。
このオンナを責める事を諦めた。
そしてそのオンナは、私にその吐き気のする笑顔を向けたまま言ったのだ。
「もう二度と、あなたに会う事はないわね。私をわかってくれてありがとう」
と。